社会人博士の深層学習ブログ

深層学習を使った環境音認識研究で、働きながら博士号を取得しました

【社会人博士】学生時代の研究や仕事内容と関係なくても博士号は取れる? 〜進学前の業務や持っていた専門性体験談〜

このブログを見つけてくださった方の中には、社会人博士に興味はあるけど、卒業するだけの能力があるのか不安な方もいるのではないでしょうか。

参考までに、私が社会人博士をはじめるまでの経歴を書いてみようと思います。

 

結論から言えば、修士での研究とも会社の仕事も、社会人博士の研究とは関係がなく、進学時点では、研究を行うだけの知識もありませんでした。

 

それでも、国際学会4件、ジャーナル2件を投稿し、無事に3年で博士号が取得できましたので、進学をためらっている方の参考になれば幸いです。

 

 

大学時代:工作機械の振動検知技術の研究(2009~2011年)

メカトロニクス系の学問を扱う学科を卒業しました。具体的には、力学、電磁気工学、電子回路、信号処理、制御工学、熱流体力学など、幅広い分野の授業を履修しました。

 

研究室では、工作機械の振動検知技術の研究を行いました。

生産量を増やすため、できる限り高速に加工を行いたいですが、異常振動のない最適な条件の探索はに、職人のカンコツに頼っている部分がありました。

 

そこで、制御工学の技術である外乱オブザーバを用いて、外部センサを用いることなく振動を検知するアルゴリズムを開発しました。

外乱オブザーバとは、主軸モータに内蔵されているエンコーダと電流指令値から、モータにかかる外乱トルクを推定することができる技術であり、推定した外乱トルクを用いて異常な振動を検知します。

 

修士の2年間の成果で、ウィーンで開催された国際学会での発表、精密工学会誌へのジャーナル投稿をすることができ、ありがたいことに研究奨励賞までいただきました。

 

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社会人時代①:生産技術部門での電装ハードウェア開発(2012~2017年)

とある自動車関係の会社に入社してから約5年間は、生産技術事業所の研究開発部にて、主に電装システム設計、電子回路設計を担当しました。

主なプロダクトとしては、工場向け検査デバイスやAGVの設計を行いました。AGV開発に関しては、電源コントローラ、モータ制御、自己位置認識、FA安全規格に準拠した安全コントローラなど、幅広い機能を持つAGV1台分のシステム設計を担当させてもらいました。

大きな会社ですと、仕様書だけ書いて外部メーカーに委託という場合も多いと思いますが、私のプロジェクトでは珍しく、回路図を描くところから、機能検証、EMC試験までを自分で行いました。

 

近年はソフトウェアの時代だと言われ、ハードウェアは外注すればよいという見方もありますが、自動車は人の命に直結するため、厳しい信頼性基準を満たす必要があり、安易に外注することできません。

当時の師匠に教わったことですが、自分でもできる人が外注するのはいいが、よくわかっていない人が安易に外注すると高い確率で不具合が出ます。ハードウェアが飽和してきたからこそ、得意としてきた信頼性は安易に捨ててはいけないと思っています。

 

 

社会人時代②:北米事業所における工場導入支援(2016年)

開発した装置の導入支援のため、北米事業所に駐在しました。

現地のアメリカ人に、自分が回路設計した検査デバイスの感想を言われることがあったのですが、

「1世代前よりも不具合が格段に減ってとてもいいよ!」

と言っていただけました。

不具合が減った部品は、その1世代前まで外注していたところ、はじめて自前化した部分だったのです。

 

感謝されて嬉しかったのと同時に、「信頼性」にこだわって作ったプロダクトには、たしかに価値があったのだということを実感しました。

また、日本人とアメリカ人の働き方の違いや効率性に対する考え方など、その後の考え方を大きく考えさせられる経験となりました。

 

社会人時代③:異常音検査デバイス開発(2017~2019年)

大学生の頃から、「人間と同じように感じることができるアルゴリズムを実現したい」という思いがありました。大学院で研究していた振動検知技術も、「力を感じることができる工作機械」であり、人がカンコツで判断しなくても、機械自身が判断してくれるようになります。

 

そこで、異常音を自動で検査するデバイスのテーマをプロジェクトリーダーとして提案しました。「人間と同じように異常音を聞き分けることができるデバイス」です。

 

人間は、雑音の中から聞きたい音だけを分離して、正常か異常かを判断しています。

社会人になってから5年間、ハードウェアメインでやってきましたが、信号処理や機械学習を用いたアルゴリズム開発にも取り組み始めました。

 

このプロジェクトでは、リーダーとして一つ大事なことを学びました。

それは「仕事にはロマンが必要である」ということです。

 

会社の中にいると、コストダウンが重視されることが多いですが、本当の目的はエンドユーザーにとっての価値を高めることにあると気づきました。

工場向けの設備担当でありながらも、エンドユーザーの満足度に直接貢献できると考えた方が、社会の役に立つ仕事ができると信じています。

 

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社会人博士時代:深層学習を用いた環境音認識・分離の研究(2018年〜)

異常音の検査アルゴリズムを開発していた頃、もっと音の認識技術について知見を深めたいと思うようになり、半分勢いで社会人博士課程に進学しました。

 

音の認識技術というと、音声認識を想像されるかもしれませんが、私は様々な環境音を対象とした認識技術の研究を行っています。

 

具体的には、複数のクラスの環境音それぞれを分離するというアルゴリズムの研究を行っています。幸運なことにロボットのトップカンファレンスであるIROS2019に採択され、久しぶりの研究発表を行いました。

 

ここまで書いたように、大学時代は制御工学と信号処理、社会人時代は主に電子回路が専門でしたが、関係ない人工知能の分野で博士課程進学を決めました。

事前知識が少ない文、初年度のスタートダッシュはできませんでしたが、なんとか、国際学会4件、英文ジャーナル2本投稿までこぎつけました。

 

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