会社で振動制御に取り組んでいる先輩から、伝達関数やFRF、コヒーレンスについて質問をもらい、答えていくうちに、少し本質が見えたような気がしたので、記録に残しておく。
正しくない部分があれば、ご指摘いただけると助かります。
まずは、問題の整理。
先輩いわく、振動源からある点までの伝達特性を把握したいが、以下のような疑問がある模様。
・伝達関数とは何なのか?
・FRF(周波数応答関数)とはどういう違いがあるのか?
・コヒーレンス関数とどういう関係があるのか?
このような疑問は、信号処理分野と制御工学で、使っている用語や情報がごっちゃになっていることによるところがあるのでは思っています。
制御工学での伝達関数
まず、伝達関数とは、制御工学でよく出てくる用語で、
出力 = 入力×伝達関数
と定義されているもので、ラプラス変換をして求められ、減衰のような動的な挙動まで解析することができます。
音響分野での伝達関数
一方、音響分野などの分野では、伝達関数のことをFRF(周波数応答関数)と言ったりします。
何が違うのかというと、多くの場合、
・(制御でいう)伝達関数は、ラプラス変換を使い、「動的に」
・(音響信号処理でいう)FRFは、フーリエ変換を使い、その音が定常的に鳴り続けるものとし
て解析されており、さらに、振幅特性のみを表し、位相特性については、表現されないことが
多い。
なぜ、そういった文化の違いがあるかは、ここではおいておいて、
振動制御の場合は、減衰まで含めて「動的な」伝達関数をもとめる必要があることがわかります。
コヒーレンス関数との関係
では、制御工学でいうところ伝達関数をラプラス変換を使って求めたいわけですが、
コヒーレンス関数とはどういう関係があるのでしょうか?
例えば、インパルス応答法という、伝達関数や固有振動数を求める方法がありますが、
コヒーレンス関数を一緒に測定し、コヒーレンスが高ければ、測定した伝達関数の信頼度が高いと判断したりします。
なぜそんなことができるのでしょうか?
まず、コヒーレンス関数とは何かざっくり言うと、周波数領域における、2つの信号の相関係数
のようなものであり、振動解析の場合、
「振動源とある点の振動の周波数領域での相関係数」
ということになります。
したがって、コヒーレンスが低い=ある点の振動は、振動源の振動とは全然関係ない!
ということになるので、その間の伝達関数には何の意味もなくなってしまうわけです。
なぜコヒーレンス関数が低くなるのか
ここで、本来であれば、入力は振動源しかないので、ある点の振動と関係ないはずがない!
のですが、なぜコヒーレンスが低くなるのでしょうか?
考えられる原因は、「現実のシステムが非線形」、「信号の時間遅延」などがあるそうです。
インパルス応答法は、通常剛体に対して行うので、時間遅延はないと考えられますが、
振動系に対しては、バネ等の遅れ要素が含まれるので、あまり意味がないのでしょうか?
ちょっとこのあたりは自信がなくなってきましたが。。
時間遅延については、置いておくとして、線形性について考えてみます。
大学で習ってきたほぼすべてのことは、「線形なシステム」を前提としています。
線形とは、ある入力も出力もすべて、足したり引いたり掛け算したりできるということです。
「重ね合わせの理」とも言います。
現実には、
・隣の部品と衝突してしまう
・摩擦係数μが変化する
これらは、すべて非線形な振る舞いをするので、簡単には予測不能です。
なので、コヒーレンスを測定し、それがある程度高ければ、
「線形システムとしてみなしてもいいよね」
ということなのです。
まとめると
・伝達関数と言っても、分野によっては動的であったり定常を前提としていたりする
・世の中は非線形システムばかりなので、コヒーレンス関数を使って、線形性を仮定できるか確認する
ということです。
偉そうに書きましたが、最近になってようやく気づいたことです。
(間違っていたらごめんなさいw)
大学で勉強したことが、こうやって生きた知識になっていくことが、とても充実感がありますね!
長くなってしまいましたが、今日はこのへんで!
以下の記事に、得られたコヒーレンス関数から何がわかるかということを検討しています。良ければそちらもご覧ください。
また、フーリエ変換、短時間フーリエ変換についても、イメージをできるだけわかりやすく解説しました。よければそちらもご覧ください。